今回は、若き日に学問僧として中国に渡り「真言宗」の開祖となった弘法大師~空海~の昔話であります。
…日差しが強く、暑い日でありました。夏の訪れを告げる虫の鳴き声が響き渡るそんな山中を一人の僧が歩いています。道もまともにない山中は、僧の体力を著しく消耗していきました…
山道を下り、農村へと出た僧は空腹と喉の渇きで今にでも倒れそうな状態でした。農村は、見渡す限り田畑が広がる場所でした。雨の降らない時期が続いていたこともあり、田畑は乾ききり、作物は一つも育っていない…そんな貧困農村でありました。
僧は、せめて水でも…と、大きな屋敷の前で力いっぱい声を掛けます。
「…すみません、私は旅の者です。長旅で喉が渇いてしまいました。そちらの敷地内にある井戸の水を私に飲ませては頂けませんでしょうか。」
屋敷の主は、手で追っ払いこう言い放ちました。
「ただでさえ、雨の降らない日が続いているんだ…!お前なんかにやる水はない!帰れ!」
…僧は、扉の中にも入れないまま追い返されてしまいました…。そしてまた数キロ…足元もおぼつかない様子で古い一軒の民家に辿り着きました。今にも崩れそうなそれは古い家だったそうです。
僧は最後の力を振り絞って「…水を下さいませんか。」と言ったそうです。
すると中から若い女性が出てきたそうです。
「…旅の方ですか。何とお疲れなのでしょう。今水をお持ちします。こちらでお休みになって下さい」と。若い女性は、駆け出し数キロ離れた川まで水を汲みに走ったそうです。しばし待つと、汗にまみれ髪も乱れた女性が水を桶に入れて持って来てくれました。
「…なんとありがいことなのでしょう。わざわざ見ず知らずの旅の者にこんな施しを頂けるなんて。」そう言うと僧は一粒の涙を流したそうです。
「気になさらないで下さい。困っている方が居れば、それを助けることは当たり前の事です。しかし、家には井戸が無いので、汲みに行かなければ水を得ることが出来ません。」
…雑穀のおかゆを貰い、僧は少しその場所で休ませて頂きました。その家には、年老いた母がおり暮らしは全てその娘が担っていたのでありました。
暑い日も外へ出て、田畑を一生懸命耕し雨ごいを願い近くの地蔵に健気に手を合わせる…そんな娘を見ると僧は人の生き方とは、日々の生活からにじみ出るものだ…とつくづく感じたそうです。
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