天の住人となった白狐は、天へと昇った瞬間に言葉を覚え、妖術を操ることが出来るようになったそうです。
神界へ白狐を導いた神が地を指さし告げました。
「直にあの屋敷へ子が産まれる…お前はそこへ行き、その子の道しるべとなりなさい。そしてその子をお守りするのです。」
…時は過ぎ、屋敷には神のお告げ通り女のお子が産まれたそうです。
不思議な事に、その子供には他の者が見えぬ世界が視えていたそうです。生まれてすぐに母親を亡くし、屋敷にこもる生活をしておりました。話をする相手もおらず、花や木を愛でて過ごしておりました。ふと、お子が花を愛でながらつぶやきました。
「お前は、私にしか視えぬのか。」
白狐は、淡い光を放ちながらゆっくりと姿を現したそうです。
「視えておられたのですね。今日からあなた様にお仕え致します。私は、天より命を受けし白狐であります。」
こうして二人は出逢ったのでありました。
…幼少期からというもの、お子の力は増すばかりで妖や精霊、幽霊や憑きモノなどさまざまなものを視るようになっておりました。
お子を恐れ多く思った父は、他の者に触れぬよう、見られぬよう蔵に隠してしまったそうです。世話をする女中達も、お子の話す事柄に恐れをなし決して近づこうとはしませんでした。いつしかお子の閉じ込められた蔵は「蔵隠し」と呼ばれるようになりました。
白狐はそんなお子を憐れみ、常に共に居るようになりました。
寒い蔵の中、寄り添うように眠る二人はいつしか家族よりも固い絆で結ばれていたのでありました。
「なぜに私は生まれたのだ。」お子は涙を流し、白狐へと問いました。
「生まれし運命には逆らえません。しかし、私は感謝しているのです。あなた様と出逢い地にて共に過ごせることを。親を知らずに育った私には家族がおりません。そして人の温もりも知りません。あなた様の手は温かい。そのぬくもりを知れた幸せと引き換えに、どんな事があってもあなた様をお守り致します。」
…長い年月が過ぎ、お子は立派な成人女性へとなりました。
満月の夜、蔵へ訪れた女中から父が亡くなったことを知らされたのでありました。
お子は来る日も来る日も泣いたそうです。…閉じ込めた父親に対しての怒りではなく、亡くなる最期を看取れずにいたことを悔いていたのでありました。
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