神々は、私達人間に恩恵を与え学びを授けて下さる存在です。
神界には、人間と交わることを禁じる掟があります。一度交われば、感情のまま人間をフェアに扱う事が困難になると考えられているからです。
そして神界では何よりも秩序を重んじる傾向がある為、ルール(掟)は最大の権限を持ちます。
神とて人間に近い感情を持ち、だからこそ人間に同情し共に寄り添うのです。
…そんな中、人間に恋をした女神がおりました。
これは遠い遠い昔話であります。
…神界から望む人間界の世界は、今よりももっと綺麗で居心地の良いものでありました。
時折神々は神界から降り、人間界で人間の姿となり生活をしておりました。
生きるままを望み、生きぬく事に疑問を持たない世界です。
神以外にも妖や精霊達にとって好奇心をそそる世界だということは、言うまでもありません。神界の掟に縛られた神々にとっては、新鮮で満ち足りた人間の幸せを身近に感じる事が出来たのだと思います。
…とある女神は、毎日の何不自由のない生活や無の境地に疑問を感じるようになったのです。毎日天上界から見下ろす世界を視ては、人間の汗する姿、感情のままに動く表情全てに憧れを抱く様になりました。
しかし、女神の父神は天上界でも一、二を争う程の位の高い神であり決して人間界へ降りる事を許しはしませんでした。女神は、遣いの龍に人間界へ降りる方法を模索して欲しいと頼みました。龍は「たいそれた事など考えませんように…」と女神の心を落ち着かせようと試みました。しかし、女神の意志は固くとうとう龍は折れてしまいました。
「神無月の満月の夜、神界では大きな宴が催されます。その晩のみであれば、父神もお姿を探されません…」と。
女神は、神無月の満月の夜、父神の目を盗み人間界へと降りたそうです。
降りた場所は、川の流れる音が聞こえる自然豊かな山のふもとでありました。
…そっと、川を手で愛でて水の冷たさを肌で感じ目をとじたそうです。
そして、そのまま1人の若い女性の姿となり道なりを歩き出しました。
全てが新鮮で、全てが光り輝いて見えた晩でありました。夜もいよいよ本格的な時を迎えようとしていました。限られた時間の中を女神は、全ての生き物を愛おしく感じながらゆっくりと前へ一歩ずつ歩いたそうです。木に触れ、葉に触れ、時には虫や生き物達を間近に感じて…
「満月の夜は、父神も神界に集う神々へのもてなしで大そう忙しいことでしょう。」そう言った彼女の目には、今にもぶつかりそうな程大きな月が目の前に映し出されておりました。
そんな時、声を掛けてきた1人の男性がおりました。
「夜道は明かりもなく、足元も危ないでしょう。今宵は月明かりがありますが、何故ゆえにこちらに…?」と。
月明かりのもと、二人は目を合わせました。
その瞬間、お互いにどこか懐かしく、そしてどこか見覚えのある声に驚いたのでありました。
住む世界の違う二人が出会うはずもないのに、どうしてこんなにも感情を揺さぶられるのだろうか…と。一目見てお互いは恋心を抱いたのでありました。
…実は、女神は夫婦となる男神がおりました。それも最高神の神の妻であります。
そんな女神に訪れた淡い恋の話であります。続きはまた後日お伝え出来ればと思います。
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